遺言書を書いただけで、終わりではありません。人が亡くなったあと、遺言書に書かれた遺志を実現するためには、「遺言執行者」が必要です。
この記事では、次の5つについて税理士が解説します。
- 遺言執行者とは?
- 遺言執行者がなぜ必要?
- 遺言執行者がいなくて困るケース
- 遺言執行者にできること
- だれに遺言執行者になってもらうべき?
遺言書を作成したものの、遺言執行者の取り決めがなく、揉めてしまう家庭を数多く見てきました。ポイントを絞って解説します。
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遺言執行者とは?
遺言執行者とは、「遺言書に書いてある内容を実現するために手続きを行う人」のことです。
生前に遺言書を書いたとしても、その内容を死後に実現させるためには、誰かにお願いをしないといけません。そのサポートを行う人のことを遺言執行者と言います。
遺言執行者には「権限」や、やらなければならない「義務」があるため、弁護士や司法書士、税理士などの専門家がなることが一般的です。
遺言執行者の権限
遺言執行者とは遺言を執行する人、つまり、遺言を実現するために行うべき様々な事務を行うことができます。
具体的には、次のような権限があります。
- 銀行口座や証券口座の解約
- 不動産の処分
- 遺贈の履行(財産を相続させること)
- 遺言による子の認知
- 遺言による相続人の廃除 など
たとえば、遺言書に株式を売却して遺産分割するという内容が書かれていた場合、遺言執行者の権限で換金することが可能です。
遺言執行者の義務
遺言執行者には強い権限がありますが、一方で、果たすべき義務があります。
たとえば、次のような義務があります。
- 遺言執行の任務を開始した際の相続人への通知義務
- 相続財産の目録の作成(財産の把握)
もちろん、遺言執行者は遺言の内容を実現するために各種手続きを滞りなく行わなければなりません。
もし相続手続きに支障をきたすような場合には、相続人が家庭裁判所に解任の申請を行うと解任されてしまいます。
したがって、遺言執行者になるには相続の専門的知識が求められます。
遺言執行者になる人の例
法律上、未成年者と破産者は遺言執行者になることができないとされています(民法第千九条)。
言い換えれば、たとえば近所に住んでいる佐藤さん、鈴木さんといった他人であっても遺言執行者になることができます。
ただし、上述したように、遺言執行者は複雑な相続手続きを期限内に行う必要があります。
手続きが滞り、兄弟ゲンカが起こったり、相続税の申告期限に間に合わない。そのようなことにならないよう、慎重に執行者を選定する必要があります。
そのため、一般的には弁護士や司法書士、税理士など相続に関する知識がある人が遺言執行者になります。
遺言執行者がなぜ必要?
遺言執行者はなぜ必要となるのでしょうか。理由をいくつか挙げると次の通りです。
- 遺言執行者がいないと預金口座の解約・引き出しができないから
- 死後、何をやればいいのかわからないから
- 仕事が忙しくて時間をとれないから
- 家族ゲンカが起きるから
- 相続手続きには期限があるから
詳しく解説していきます。
遺言執行者がいないと預金口座の解約・引き出しができないから
遺言執行者が指定されていないと、金融機関は手続きに来た人が執行遺言執行の権限を持っている人だという確証が持てないため、預金口座の解約などの換金手続きを行うことができません。
家庭裁判所に遺言執行者を決めてもらう方法がありますが、不利な遺言書があったり、家族が揉めていると話が進みません。
特に専門家に依頼せずに遺言書を作成していた場合には遺言執行者の指定がされていない等の落とし穴が潜んでいますので、遺言書を作成する際は専門家に相談し、遺言執行者にもなってもらうと良いでしょう。
死後、何をやればいいのかわからないから
親が亡くなった後、金融機関の手続きや不動産をどう処分すれば良いかわからない人は多いです。
金融機関での相続手続き一つとっても、遺言書や戸籍など、数多くの書類を求められます。
これらの手続きは慣れない人にとってはむずかしいため、専門家に遺言執行者になってもらった方が安心できるでしょう。
仕事が忙しくて時間をとれないから
親が亡くなった際、子どもは現役で仕事をしているケースも多いです。
相続手続きは数か月以上かかるうえ、金融機関は平日しか空いていないことも多く、平日に休みを取れない方は手続きをすすめることがむずかしいです。
仕事に支障をきたさないよう、専門家に遺言執行者になってもらった方が良いでしょう。
家族ゲンカが起きるから
長男や二男など、身内が遺言執行者になると、遺言執行者に対して不平や不満を述べる方も多くいます。
「まだ口座解約できていないのか」「手続きが遅すぎる」「遺言書の内容が兄貴に有利すぎる」。
しかし、遺言執行者になれば果たすべき義務があり、最終的に家族ゲンカに発展してしまうこともあります。
一方、親が生前にお願いした弁護士などの専門家に対しては、やはり文句は言いにくいものです。
もちろん、争いに発展する前に、うまく話をすすめてくれるでしょう。
相続手続きには期限があるから
相続手続きには期限があり、過ぎてしまうと取り返しがつかなくなることもあります。
たとえば相続税の申告期限は亡くなってから10か月以内です。この期限は長く見えるかもしれませんが、思っている以上に短いので期限を過ぎてしまう方が結構います。
一つ例を挙げると、遺言執行者はまず「財産目録」を作成しなければなりません(民法第千十一条)。
財産目録を作成するためにはどんな財産があるか、全体を把握する必要があったり、これ一つとっても相続の知識がない方に作成することが難しく、時間がかかってしまいます。
相続税の申告をするうえでは財産の把握が重要なポイントとなっているため、もし、身内が遺言執行者になっていて対応できない場合には、遺言執行者を辞任し、専門家にサポートを依頼しましょう。
もちろん、相続税の申告は税理士の中でも専門性が高くむずかしい分野のため、早めに税理士に依頼すべきことは言うまでもありません。
遺言執行者の指定方法や解任方法
次に、以下の2点について解説します。
- 遺言執行者を指定する(遺言執行者になってもらう)方法
- 手続きを進めてくれない遺言執行者を解任したい場合の手続き
遺言執行者を指定する方法
遺言書で指定する
遺言執行者は遺言書で指定することが可能です。
ただし、遺言書で執行者を指定することは必須ではないため、遺言書を自筆した場合には漏れていることが多いです。
遺言執行者が指定されていない場合には預金口座の解約などができないため、現実的には必ず決めておくべき問題です。
家庭裁判所で選任してもらう
遺言執行者が遺言書で指定されていなかった場合、亡くなった後に家庭裁判所で遺言執行者を選任してもらうことが可能です。
遺言執行者を解任する方法
身内が遺言執行者になっても手続きを進めてくれないときは、遺言執行者を解任することができます。
遺言執行者を解任したい場合は、家庭裁判所に請求する必要があります。ただし、遺言執行者が任務を怠ったときなど、正当な事由があると認められる場合に限って許可されます。
したがって、たとえば、次のような場合であれば遺言執行者としての責務を果たせないため、遺言執行者を解任される可能性があるでしょう。
- 遺言執行を行ってくれない場合
- 病気で長期の入院が必要になった場合
- 海外に長期旅行を行っている場合
なお、正当な事由があったとしても遺言執行者を解任するのは時間がかかります。したがって、最初から信頼できる人に遺言執行者になってもらう必要があります。
遺言書の作成と遺言執行者は専門家に依頼しましょう
相続手続きには民法や相続税法など、さまざまな法律知識が必要です。
遺言書を作成するときは弁護士や税理士など、相続に強い専門家に依頼することをおすすめします。
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